大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(マ)120号 判決

原告 森岩太郎 外二名

被告 国

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事実及び理由

本件原告の請求の趣旨及び請求原因は添付の別紙訴状記載のとおりである。

憲法八一条は最高裁判所がいわゆる違憲審査権を固有の権限とする始審にして終審である憲法裁判所の性格を有することを規定しているのではなく、右違憲審査権は最高裁判所が司法裁判所として具体的な法律上の争訟について審判をするため必要な範囲において行使されるに過ぎない。(昭和二七年(マ)第一四八号同二八年四月一五日最高裁判所大法廷判決参照)そして最高裁判所の司法裁判所としての管轄は裁判所法の規定するところであるが、同法その他の法律に、本件の如き争訟事件について最高裁判所が一審裁判所としての管轄権を有することを規定していないから、当裁判所が一審裁判所として審判すべきものとして提起された本訴は、これを不適法であるといわなければならない。そしてこの欠缺は補正することができないから、民訴二〇二条により却下すべきものとし、訴訟費用の負担について同法八九条を適用し、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

昭和二七年(マ)第一二〇号

訴状

東京都文京区駒込追分町六四番地 弁護士

原告         森岩太郎

同都同区大塚坂下町三六番地   会社員

原告         並木顕夫

同都同区森川町八〇番地     会社員

原告         熊谷貞次郎

同都同区駒込追分町六四番地   弁護士

右原告並木顕夫、熊谷貞次郎訴訟代理人

森岩太郎

被告         国

東京都千代田区法務省内

右被告代表者

法務大臣       犬養健

昭和二十七年法律第三〇六号地方自治法の一部改正法律の一部無効確認請求事件

請求の趣旨

一、昭和二十七年八月十五日公布昭和二十七年法律第三〇六号地方自治法の一部改正法律第二百八十一条の二第一項及びその附則第十四項の規定(即ち都の特別区の住民から特別区の区長の選挙権を剥奪する規定)は無効である。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との御判決を求める。

請求の原因

一、第十三回国会に於て修正可決した地方自治法の一部改正法律は昭和二十七年八月十日公布せられた同法第二百八十一条の二第一項を以て従来実施した特別区長の直接住民の公選制を改めて特別区の議会の議員の選挙権を有する者で、年齢満二十五年以上のものの中から特別区の議会が都知事の同意を得て、これを選任する旨を規定し、更に附則第十四項に於てこの法律施行の際、現にその職にある特別区の区長は改正後の地方自治法第二百八十一条の二第一項の規定にかかわらず、その任期中はなお従前の例により在職するものとすると規定せられたのであります。

二、前記特別区長選任の方法が住民の直接公選制から議会の間接公選制え改正せんとする前記法律は、其の範囲に於いて憲法に違反し効力を発生すべき余地はないと信ずるのであります。

三、政府が第十三回国会に地方自治法の一部改正案を提出して特別区長選任を住民の直接公選制を廃して知事の選任制にしようと試み、政府(岡野国務大臣)が衆議院地方行政委員会において説明せられたところを要約すると左の通りであります。

(1) 憲法に規定する地方公共団体とは、都道府県市町村の如き普通公共団体を指すものであつて特別区財産区、市町村の一部事務組合の如き特別地方公共団体を含まないのであるから、特別区の区長議会の議員等の選任には憲法第九十三条第二項の適用はない。即ち特別区財産区一部事務組合は憲法上の地方公共団体でなく、自治法上の政策的の公共団体であつて公共団体の長を公選せぬのは自治法上の政策的の議論であり、何等憲法に反するものではない。

(2) 憲法上の地方公共団体でない自治法上の地方公共団体に対して、その長を公選するか否かは自治法上の必要不必要によつて決まる。(以上第十三回衆議院地方行政委員会々議録第三十六号第三項参照)

四、国会は前項政府の意見を採用して特別区の区長選任方について間接選挙制を採らんとしたのであるが、原告はこれを違憲であると信ずる。

其の理由として

(1) 特別地方公共団体が憲法上の地方公共団体であるかないかは専ら各特別地方公共団体の性格を調べなければ断定を下し得ないのである。憲法上の地方公共団体とは一定の地域内の日本国民たる住民を以て構成する地域団体で住民の公共の利益の為めに自ら其の地域内の行政を執行する権利を与えられたるものと解するのである。従つて財産区は其の財産及び営造物の管理処分の権能のみに限られて居るので、憲法上の地方公共団体と云うことができないことは原告においてもこれを認めるのである。換言すれば、自治法上の特別地方公共団体の全部が憲法上の地方公共団体と云うことはできないが特別市、特別区の如きは明かに憲法上の地方公共団体の範囲に含まれると思う。

(2) 憲法第九十三条の規定は同法第九十二条をうけて民主政治の立場から地方公共団体には議会を設置すべきこと並其の長議会の議員等は住民の直接選挙によらなければならないことを規定したのである。この憲法に基いて現行地方自治法が制定せられ、特別区は憲法上の地方公共団体として議会を有し、其の長及び議会の議員は住民の直接選挙によつて選任してきたのである。このことは第九十二帝国議会に於ける所管大臣の地方自治法提案理由説明(抄)及昭和二二年五月三日内務次官発地方自治法施行に関する件通牒によつても明かなところであり何等疑問の余地はないと信ずる。

(一) 第九十二帝国議会における所管大臣の地方自治法提案理由説明(抄)

――この法律に定めた主な事項で特に現行法に改正を加えた点について、第一は総則事項であります。即ち地方公共団体を二種に分ちまして、都道府県及び市町村を普通地方公共団体として規定を設けると共に、特別市特別区組合等の団体を特別地方公共団体として規定し、東京都につきましては、区はこれを特別区として、原則として市と同一の権能を認め、これと共に東京都は基礎的地方公共団体でなく、道府県と同様に市区町村を包括する複合的地方公共団体としたのであります。

(二) 地方自治法の施行に関する件通牒(昭和二二、五、三、内務次官発)抄

第一総則に関する事項

二の2 東京都は本法施行とともに基礎的地方公共団体でなく、一般道府県と同様に市町村及び特別区を包括する地方公共団体となり、その性格が全く異るようになるから経過的運営については、特に留意するとともに特別区の存する区域については、その特殊性に即応する行政を行うに遺憾なきを期すること。

(3) 然らば今回制定された地方自治法の一部改正法律によつて従来の特別区が憲法上の地方公共団体たる性格を失い、単なる自治法上の地方公共団体に変更されたであろうか。

原告は、改正法第二百八十一条の改正は特別区と都の事務を列挙し、都の条例を以ても濫りに区の事務を縮少することができないようにし、都と特別区との事務の分配を調整して都区民の福祉を増進することにしたものと信ずる。従つてこれを以て特別区の基礎的地方公共団体たる性格を消滅させたとは考へることができない。

即ち都に対し一面特別市のような性格を有たせたにかかわらず、特別区を特別市の行政区又は単なる財産区に転化せしめたのではなく、市町村に準ずる憲法上の地方公共団体として存置せしめたことは否定できないと思う。

(4) 従つて特別区の区長及議会の議員等は憲法第九十三条第二項を改正するにあらざれば、住民の直接選挙によつて選任しなければならぬのである。然るに特別区の性格を変更することなく、区長の選任を住民の直接選挙から議会の間接選挙に改め、而も選任について都知事の同意を要する如き地方自治の否定であつて憲法違反と断定せざるを得ない。

上述し理由によつて、原告は文京区民として区長の選挙権を害せられるので本訴に及んだ次第である。

右の通り訴提起致します。

昭和二十七年八月廿一日

右原告           森岩太郎

右原告並木外一名訴訟代理人 森岩太郎

最高裁判所 御中

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